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メールマガジン2017年秋号「展示会・イベントブームは新たなステージに」(2017/11/30)
展示会・イベントブームは新たなステージに
特別研究員 寺澤 義親

最近日本の展示会・イベントを見ていると、新たなステージへの移行を予感させる動きが多い。例えば初開催の展示会・イベントが続出している。海外から日本に初上陸するイベントも増え、出展者、来場者が過去最高を記録するイベントも多い。全国各地ではコンサートなどライブイベントから様々な集客イベントまで活発に開催されている。その実態と背景について見る。

1.マクロベースで展示会・イベントを見る

1)展示会市場は上昇トレンドの安定期に

まず日本の展示会件数はどうか。展示面積2000u以上のBtoBを対象とするUFIのデータは過去5年では年間330件前後で推移し、2016年は333件と横ばい状態。

ジェトロのデータ(BtoBで1000u以上の展示会)は1987年以降、年間ほぼ400件前後で推移しており、17年度の開催予定件数は484件と増加。

ピーオーピー社のデータ(企業展を除くBtoBとBtoCを対象、規模の基準はない)では、東日本大震災の影響からは12年に610件と回復、その後は増加基調となり16年は681件、17年は709件(見込み)と着実に増加。

次にUFIによる日本の展示会主催者の推定販売展示面積と売り上げ額では両者とも過去5年間連続で増加しており、16年は販売展示面積が前年比0.4%増、推定売上額も前年比0.6%増とトレンドを維持している。ただ、アジアでは中国に続く2番目の市場規模を誇る展示会大国の日本だが、成長は常に地域の平均伸び率を下回る緩やかな水準にとどまっている。

しかしアジアで3番目の有力プレーヤーの香港が16年に販売展示面積、売上金額ともに前年より減少させているのに対して、この微増は良好な結果である。


2)ライブイベントは全国各地域で大きく成長している

最近のイベント市場拡大に大きく貢献しているライブイベントの動向はどうか。特色の一つはライブハウスやホールだけでなくアリーナ、スタジアム、展示会施設、スポーツ施設、イベントスペース、ギャラリーなど幅広い施設で開催されていることだ。加えてライブイベントは05年以降公演数、来場者数、売上額を大きく拡大し14年から成長を加速させている。

コンサートプロモーターズ協会(ACPC)によると公演数は05年の13,982件から16年には29,862件に、来場者数も2016万人から4768万人とともに2倍超に増え、売上額は1049億円から3100億円と約3倍に伸びている。ACPCの数字は日本全体をカバーするものではないものの、『2017 ライブ・エンタテインメント白書』(ライブ・エンタテインメント白書調査委員会)によると16年には日本のライブイベント市場規模は5000億円を突破している。

さらに注目すべきは、東京一極集中傾向が強い展示会と異なり地方での公演も増えていることだ。

例えば16年の公演地域分布は関東が全体の36%、近畿が23%と集中するものの、東海(10%)、九州・沖縄(8%)、東北(7%)、中国・四国(7%)、北陸・信越(5%)、北海道(4%)と全国各地域で開催されている。都道府県別に公演数の多い順は東京都(全体の28%)、大阪(17%)、愛知県(8%)、福岡県(5%)、宮城県(4%)となっている。

さらに公演数の動向を見ると16年は24道府県で、17年上半期(1月〜6月)には23都道県で前年同期より公演数を増やしている。ライブイベントは首都圏、近畿だけでなく各地域で浸透拡大している。

今では毎日どこかの施設でコンサートに、握手会、声優イベント、トークイベント、ゲーム大会、ダンスなど多彩なライブイベントの開催告知を目にする。ライブイベントは間違いなく熱いブームを迎えている。


3)施設の利用延面積は増えている

もう少し実態を把握するために、施設の利用状況を見る。ここでは屋内規模15,000uを超える国内展示会コンベンション7施設(所在地は千葉市、東京都、横浜市、名古屋市、大阪市、北九州市、福岡市)が加盟する大規模展示場連絡会の利用延面積の動向を見ると、過去5年間で実績は回復・拡大の途上にあり、16(平成28)年度の7施設合計利用延面積は最大の伸び率となった。これらの施設は展示会の他、企業展、会議・イベント、コンサート、スポーツイベント、その他ライブイベントにも利用されており、東京以外の施設では展示会以外の利用が全体の半分以上を占めている。展示会・イベントの盛り上がりが地域的に広がっていることがわかる。

4)来場者の消費額も5年連続で増加

最後にイベント*来場者の交通費、宿泊費、会場内外の支出等を含む支出消費額はどうか。日本イベント産業振興協会(JACE)の 16年1月〜12月の国内イベントの来場者消費額(推計)によると、イベント消費規模は前年比12.9%増で5年連続の増加となった。特に文化イベント、スポーツイベント、展示会・見本市の順に来場者消費額が大きく拡大している。

*会議・イベント、展示会・見本市、文化イベント、スポーツイベント、フェスティバル、販促イベント、興行イベントを含む。

2.好調な背景の実像に迫る

1)新規の展示会イベントが増えている

展示会イベントが好調とわかるのは、まず新規開催が目立つことだ。最近はインバウンド・観光、食品、情報技術、スポーツ関連、地方活性化、健康・介護をテーマとする展示会やイベントの開催が増えている。背景としては政府の成長戦略や地方創生への取り組み強化に訪日外客数の増加で新たなビジネスや需要拡大への期待がある。実際に企業と自治体等の公的セクターも新たな市場や取引拡大を目指し活発に動き、同時に展示会やイベント主催者も今こそチャンスと意欲的になっている結果だ。展示会イベント主催者の攻めの姿勢が今の傾向の推進力になっているのだろう。特に開催が集中する分野、例えばインバウンド、食品、IT関連、介護・健康のイベントでは主催企業が出展者や来場者獲得に凌ぎを削っている。

ピーオーピー社のデータによると、新規展示会の計画が14年には23件だったのが、16年44件、17年には54件と3年で2倍以上になっている。

新規イベントには日本市場や世界の市場に関心のある企業や人が増えていることを背景に登場した企画もある。例えばスタートアップ支援やマーケティング関連イベントだが、これまで日本には少ない部類のものだ。このうちSAMURAI ISLAND(東京)とTech in Asia Tokyoは今やそれぞれ日本とアジアで最大級のスタートアップエキスポに成長している。

16年には日本初のダンスミュージックの国際イベント・会議「TOKYO DANCE MUSIC EVENT」が渋谷の街を会場に生まれた。これは欧米がアジアに注目する中で、日本が開発した新世代の映像・音響技術をアピールし、日本の音楽業界の活性化も狙う日本独自のダンスミュージック文化を世界に発信するものだ。

また昨年から全国各地で多彩なイベントが企画されている背景には、これまでの地域・街おこしの活動に加え、東京2020参画プログラムの存在もある。東京2020大会を盛り上げるためにスポーツ、教育、文化、経済等の8テーマで、これまでに約9,000件(17年6月時点)のイベントが認証され現在まで450万人以上が参加している。この中には東京都の中小企業世界発信プロジェクト2020のように毎年開催の産業交流展の中で同時開催されるのも誕生している。

東京2020参画プログラムのうち、日本の魅力を発信するイベントは20年以降もレガシーとして継続されるので、地域イベントとして定着する可能性もある。

2)日本初上陸の展示会イベントも登場

日本初上陸の展示会イベントが増えているのもプラス材料だ。これは世界の日本への関心の高まりが背景にある。例えばスポーツ施設(Stadia & Arena Asia Pacific)、ライセンシング(Licensing Expo)やファッション(MAGIC)のイベントが日本で開催された。世界最大級のスタートアップイベント、Slush Asia (Tokyo)も15年から開催。米国発のアニメ・ポップカルチュアイベント、東京コミコンは16年から登場している。
MICEグローバル企業のClarion Events (英国)も日本でのIR開発の可能性を狙い、16年からIR・カジノに関する国際会議「Japan Gaming Congress」を開催している。

世界最大の展示会イベント団体、IAEE(米国)のメンバー(主催者)に対する「アジア地域でのビジネス関心調査結果」によると、日本は、中国、シンガポールに次ぎ3番目に関心のある国となっている。今後はイベントの日本上陸だけでなく、海外企業が日本でビジネスイベントを立ち上げる可能性も今より高くなるのではないか。

3)東京以外の開催も増えている

ごく最近の動きでは、同じテーマで春秋2回開催や、東京以外で開催する展示会が増えている。かつて有力な展示会は大阪と東京での開催が多かったが、業界が停滞して東京のみになったケースが多い。しかしながら近年はビジネスサイクルや市場拡大に応じて開催数を増やす、東京以外の場所で開催する主催者が登場してきている。企業の東京志向が強く、結果として展示会は東京が中心となってきたが、新たな展示会の会場確保が厳しく、2020年の施設利用制限もあり、東京以外を検討する主催者が増えてきたと推測される。

開催パターンには3つある。一つは東京以外の首都圏内で年に2回開催するケース。これは宝飾、IT関連、ライフスタイル・化粧品、医療・介護分野。次は東京と大阪で開催するケース。これはIT関連、美容・化粧、エネルギー、医療・介護、自動車、ギフト、食品・農業、インテリア等の分野で増えている。最後はこれとほぼ同じ分野で開催地に神戸、名古屋、福岡、札幌を選ぶケースも出ている。

東京、首都圏、大阪での開催は国際展示会又は全国規模の展示会と位置づけ、その他地域では固有の産業集積や市場規模を狙った展示会と主催者は差別化を図っている。

主催者が開催地を決める際には、市場規模、施設のアクセス等が重視されるが、一部の自治体で実施している国際展示会又は新規の展示会誘致、さらには規模を拡大する展示会支援の財政支援策も効果があることを指摘しておきたい。

一方、これまでもスポーツ製品、アパレル・子供服、玩具、建材・住宅、工具・機械部品等の分野では、一定の市場規模が見込める地方都市でも企業展や販促イベントが開催されているが、これらは引き続き全国展開型のリピーターイベントとして開催されていくのは確実である。

4)国際化やコンセプト見直しで規模拡大に成功している

海外プロモーションやバイヤー招待を強化する。コンセプトを見直し企画の魅力を増やすことで内外の出展企業や来場者誘致に成功し、展示会の縮小防止と規模拡大を実現している展示会が増えているのも好調なトレンドを支えている。

これらはゲーム・コンテンツ、食品・飲料、IT関連、エレクトロニクス、エネルギー関連、ギフト分野で顕著だ。例えばエレクトロニクス展示会がIoTやサイバーフィジカルシステムの展示会に転換することで、出展者のうち30%は初出展で異業種からの出展を獲得し出展者を増やすのに成功。

ゲーム・コンテンツの展示会では世界のゲーム市場のハブにする戦略や注目されるe-Sportsへの取り組みをアピールして出展者の半分以上は海外出展者を獲得、国内出展者も過去最多を実現している。

またナノテクノロジー、食品、エネルギ―関連、化粧品、ライフサイエンス分野では海外出展者の比率が30%以上と国際化に成功し、次は海外来場者の獲得強化に乗り出す展示会もある。

3.今の成長トレンドを将来に活かす

市場全体も上向きで安定し、新しいイベントも続出。主催企業の意欲も旺盛。特に国内だけでなく世界、アジアを意識して業界に参入する主催者も登場。海外からも日本に上陸又は関心を持つ企業が増えている。東京以外の展示会開催が増えており、様々なイベントが全国各地で広がっている。明らかに展示会イベントは新たな発展ステージに移行したと言える。緩やかな景気回復にある日本経済。成長戦略や東京2020大会が及ぼすプラス効果。さらにはインバウンドブームや地方創生、IR開発にMICE振興への期待感など将来発展へのプラス要素が多い。

今の勢いを維持し、さらに発展させる戦略と具体的なアクションが問われる。まずは業界全体が結束する取り組みを強化することが重要だ。世界では業界が結束して、展示会イベントを含めMICE全体の力と魅力をアピールするグローバルな取り組みが16年から開始されている(Global Exhibition Day, Global Meetings Industry Day)。

展示会イベントを含むMICE業界全体が地域や関係業界ともっと繋がり、多くの人にビジネスイベントの経済的、社会的効果を、そして世界に向けて日本のビジネスイベント全体を、さらにアピールする必要がある。