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メールマガジン2017年春号「MICE開催地として学術分野を支える」(2017/05/26)
MICE開催地として学術分野を支える
主任研究員 豊田 礼子

各自治体では今年度事業を徐々に軌道に乗せていく時期を迎えている。MICEが地元にもたらす効果に期待が高まり、この先数年の国際会議誘致件数やMICEによる来訪者数の目標を立てている自治体もある。中には、これでは目標が高すぎて達成が厳しいのでは、と余計な心配をしてしまうものもある。

MICE誘致の場合、取り組み始めてから誘致に成功し、開催にいたるまで少なくとも数年がかりとなる。つまり、今年度の実績はここ数年間に及ぶ誘致への取組の成果と考えられる。事業ごとにKPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)を設定し、進捗を確認することは大切だ。だが、その指標が開催件数だけだとしたらどうだろう。昨年度の努力がそのまま今年度の成果として実を結ぶことは滅多になく、評価のしようがない。したがって、国際会議の開催件数を前年比プラス何件(あるいはマイナス何件)と「評価」するのは全く意味がない。5年間、10年間といったある程度の期間での動向が大事だ。

訪日外国人観光客の数が着実に増えていけば、M、Iの実績は順調に増えるだろう(そもそも現時点では日本でのM、Iの定義が無い、という点は課題だが)。楽観的な一方で、2020年に首都圏のいくつかの大規模施設が長期間利用できなくなる不安もある。国際会議では他地域にとってのチャンスかもしれないし、毎年同じ会場で継続開催が基本の展示会では翌年以降の開催にも影響が出るのではと危惧される。

実は国際会議に関しては、施設以上に不安な要素をひっそりと抱えている。それは、国際会議の大半を占める「学会」の今後だ。

日本の科学研究が「この10年間で失速」と英科学誌 Nature が今年3月に特集を組んだ。中国が勢いよく論文数を伸ばした結果、米国、英国といった科学の先進国も相対的にシェアを落としているが、日本に至ってはシェアだけでなく論文の絶対数さえも減少している。かねてより認識はしていたものの、著名誌が取り上げる事態に改めてショックを受ける。

この背景には、いくつもの要因が重なる。日本の研究開発支出額は世界でもトップクラスであるものの、2001年以降はほぼ横ばい。研究者が研究に専念できる時間も減った。人件費に対する補助金が削減され、研究者は不安定な任期付ポストが増えた。さらに、いわゆる「役に立つ分野」への選択と集中により、人材や研究資金が偏在し、基礎的なテーマの研究を取り巻く状況が厳しくなっている。そしてこの状況に不安を覚える若者は、研究者を目指さなくなる・・・。

国内の国際会議の開催件数は自然科学、工学、医学で半数以上を占めていることから、これが近い将来何をもたらすか、危機感を覚える人も少なくない。と書きたいが、そうでもないかもしれない。実際はMICE誘致、開催件数の増加を目標にしている都市であっても、目指すところの多くはいまだに経済波及効果であり、開催時に地元がいかに潤うか、という近視眼的なものが目立つからだ。

研究は広い裾野があってこそ、どこかでブレークスルーが期待される。文部科学省では先月、基礎科学力を強化する対策をまとめた。産業界からの資金に期待しているむきはあるものの、まずは前進。小規模ながら海外参加者の割合が高い国際会議や、「今は役に立つかどうか分からない分野」と思われる学会など、開催地として支援し、学術分野の未来を拓くのも目指す道の一つではないか。