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メールマガジン2017年春号「世界の展示会動向」(2017/05/26)
世界の展示会動向
特別研究員 寺澤 義親


展示会産業は2000年以降に中国、ロシアなど新興国でも目覚ましく発展するなどグローバル化が進展した結果、その成長は各国の経済や政治の安定度と連動する傾向を強めている。同時に経済や政治の混乱や不安定に影響される度合いも強くなっている。例えば、ITバブルの崩壊、米国の同時多発テロさらにはリーマンショックのような経済危機が展示会産業に与えた影響は大きかった。現在の世界を見ると、展示会産業の盟主である米国ではトランプ政権の不透明さが懸念され、アジアでは中国経済の減速影響が心配され、欧州では英国のEU離脱や民族主義の台頭などに象徴される経済や政治のリスクが展示会産業にネガティブな影響を与えないかと気になるところだ。こうした状況下で世界の展示会産業の最新動向について、以下紹介する。

1. 2017年に注目すべき4つのポイント
今年の展示会産業の注目点は何か?これについては昨年11月上海で「変革期にある展示産業」をテーマに開催されたUFIの第83回総会(過去最高の50か国、600人が参加)での活動報告に加えて、専務理事のKai Hattendorf氏が以下の4点を指摘しており、展示会業界が今直面する課題や動向を理解する上で参考になる。

1) グローバルベースの展示会は多極化する
ドイツは長い間グローバルベースの展示会発展にとってお手本としての役割を果たしてきている。最近ではブランド力のあるドイツのいくつかの展示会は欧州で強いポジションを維持するだけでなく、アジアに進出した展示会でも出展者、来場者数でホームの展示会レベルに近づく、又は超える実績を残すほどになっている。他方、保護主義傾向が新たに生まれる中で、欧州、アジア、米国の代表的な地域展示会の成長が加速するかもしれない。国と地域レベルの主催者にとって、新たなチャンスを迎えることになるが、単独で行くのか、又はグローバル企業と連携するのか選択は分かれる。こうした見方を裏付ける事実として、すでに米国や中国のように大きな国内市場を持つ国では海外からの来場者をターゲットにしなくても成功している展示会の主催者が多く存在している。

2) 進展するデジタリゼーションへの対応
近年業界の課題になっているデジタル技術の導入は引き続き進展し、より多くの企業が業務工程、データ管理、顧客分析についてデジタル化を進め技術習得と蓄積を早めてきている。例えばサービスプロバイダーはすでにイベント専門の技術会社と連携して、多くの主催者に対して業務効率向上にプラスとなるサービスを提供し、パートナーとしての役割を強化している。今後注視することの一つは、データ管理とプライバシーに関する法律との関係になる。例えばロシアでLinkedInの使用が禁止されたように、デジタル技術の利用が制限されることもある。

3) 施設運営ノウハウの重要性
代表的な国際市場では展示会の施設スペースが不足する問題はないが、いくつかの施設やサポート企業の現場運営で経験不足に悩まされることがある。質の高い施設に加えて、スタッフの訓練、確保は重要な継続課題になっている。これは展示会設営時や会期中の労働安全から会場の安全確保、出展者サービスの問題まで関係することになる。欧州の会場の多くは施設の機能向上やスタッフ訓練に多額の投資をしている。一方、新興国の施設では、スタッフ訓練にも取り組んでいるが、その目的は地元で競合する他施設との差別化に向けられていることが多い。特にアジアにおける展示会の発展と施設建設は、現場運営ノウハウを持つ人材不足という新たな問題を浮上させているが、なかなか解決できない課題になっている。

4) ビジネスモデルの見直し
業界が今直面する3つの課題、拡大する不確実性、デジタル化の波、変化する経済環境は、展示会ビジネスがどこに向かっているかを見る上で新しい視点になっている。
主催者、施設、サービスプロバイダーともこれまでのスタイルを捨て変化に対応する必要性が高まっている。提供するサービス価値の見直しも迫られており、これまでと違う新しい人材が求められている。展示会はこれまで以上にコンテンツを増やして、稼ぐ仕組みに変化しており、データをもっと集中的に活用することが重要になっている。現在M&Aを通じ展示会ビジネスに参入した投資ファンドが運営する主催企業が変化への時代ををリードしているが、焦点は経営幹部から戦略・管理部門のスタッフレベルまで適切な人材を獲得することにある。

2. 2017年の景況は回復し売上拡大が見込まれる
UFIは世界の展示会産業の唯一の景況感調査として実施しているGlobal Exhibition Barometerの最新結果を今年2月に発表した。これによると世界経済の不確実性や政治状況がビジネスへの懸念材料になっているにもかかわらず、世界54か国の企業240社の大半は、収益が比較的安定していた過去2年間に引き続き2017年も売上がかなり拡大すると見込んでいる。

この調査は2009年から年2回UFIメンバーに対して実施され、売上、収益の見込み(前年同期比)と経営上の重要課題と対策について以下紹介する。

1) 4大地域全体で売上が拡大する
以下のグラフのとおり売上見込に関する回答結果から2017年を展望すると、長い間経済停滞に悩む欧州は2016年前半から回復し高水準で推移しているが2017年もほぼ大半の国で平均して80%前後の企業が売上拡大を見込んでいる。ただしドイツ、イタリアは昨年よりは弱いと見ており、これまで原油安で停滞していたロシアは2017年後半からは回復し企業の60%が成長すると見込んでいる。


経済が順調な北米と引き続き低迷する南米に分かれる米州は2016年後半から回復して売り上げ増加を見込む企業の比率は全体で16年後半の55%から17年の80%超えと大きく増えている。特に米国とメキシコは好調。2016年後半に、平均80%の企業で売り上げを低下させた中南米では、ブラジルのみが2017年は拡大と見込んでいるが、その他の国では依然として売上減が続くとされている。

成長減速に悩まされているアジア・太平洋では、2016年後半の停滞から2017年には回復すると見込まれている。売上増加を見込む企業の比率は全体で16年の64%〜67%から17年の74%に増加している。このうち中国では企業の70%〜85%が売上拡大と見込んでおり他国よりも好調を維持している。

2016年前半から回復し後半から低下傾向となっていた中東・アフリカは2017年からやや回復すると見込まれるが、売上拡大を見込む企業の比率は16年の56%から17年の60%と増えてはいるが欧州、米州、アジア・太平洋と比較すると低い数字になっている。

2) 業界内の競争が高まる
以下のグラフでは、最重要事項に関する過去数年のトップ3は順に「国内・地域での経済動向」、「世界経済の動向」、「業界内の競争」になっている。今回は前回(2016年6月)と比較すると、トップ2項目のポイントは僅かに低下したが「業界内の競争」だけは増加した。


これは新たな変化で全体的に各地域・国での業界競争が激しくなっていることを反映しているが、地域と業種では比率が異なり受け止め方に違いが出ているのは興味深い。地域別ではアジア・太平洋、中東・アフリカの2地域が他地域よりも、業種別では施設とサービスプロバイダーでの比率が主催者よりも高くなっているのが注目される。これに対して日本では最近の状況を見ると同じ業種で競合する展示会が増え、施設の建設・拡張計画も進展していることから施設、サービスプロバイダーに加えて主催者の競争も激化していると推測できる。

3) 戦略では国際化と新規事業の開拓が重要に
激化する競争への対策としては、新規事業を開拓することに加えて、新たな市場に進出することの重要性が確認されている。

既存事業にとどまるか、既存分野の新規事業を開拓するか、ライブイベントやバーチャルイベントなど新たな分野を手掛けるかどうかについての回答は、以下のグラフのとおり、全体では「既存事業にとどまる」が14%、「既存分野の新規事業開拓」が57%、「新たな分野開拓」が既存分野も含め29%となった。


これを地域別に見ると地域の産業特性が見えてくる。米州では市場が成熟し競争が激化しているため「既存事業にとどまる」が他地域と比較しても格段に低く、新たな分野への進出比率も突出して高く、既存分野よりも新規分野への進出姿勢が強いことがわかる。

アジア・太平洋は「既存事業にとどまる」が平均値に近いが、「既存分野の開拓」が欧州同様に高く、新たな分野への進出は平均よりは低くなっている。市場発展の余地が大きく当面は既存分野での新規事業開拓を志向していくとみられる。
欧州は「既存事業にとどまる」が米州に次ぎ平均よりは低く、「新たな分野開拓」は平均に近いが、「既存分野の新規事業開拓」がアジア・太平洋と同じく高い。欧州は市場が成熟し停滞している状況の対策としては、既存分野の新規事業開拓と新たな分野開拓の両面作戦を志向している。

次に中東・アフリカだが「既存事業にとどまる」が平均の2倍より多く、「既存分野の新規事業開拓」も平均をかなり下回っているが、これは展示会ビジネスができてまだ歴史が浅いことを考えると理解できる数字だ。新たな分野への進出は欧州、アジア・太平洋を上回り高くなっており、これは市場が発展中であることから逆に新しいことができる余地が大きいことを示している。

最後に現在の市場にとどまるか、新たな市場に進出する計画があるかどうかについては、以下のグラフのとおり全体では61%がとどまり、39%が進出するとの回答になった。米州、アジア・太平洋、中東・アフリカではとどまるとの比率が平均を上回り高いのに対して、逆に欧州はとどまる比率が平均より低く新規市場に進出する比率が他地域よりも突出して高い。これは欧州市場が特に長い間停滞して成長が制約されていることから欧州のグローバル企業が積極的に新興国への進出を展開していることからも納得できる結果となっている。