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メールマガジン2017年冬号「MICE大国への日本の強みと課題」(2017/02/10)
MICE大国への日本の強みと課題
特別研究員 寺澤 義親

そもそもMICE大国なる表現が適切かどうかわからないが、ここでは経済効果が大きく関連企業も多い展示会・イベント、会議分野が持続的成長とさらなる飛躍を実現するための強みと課題について考える。

強みが豊富な日本
まず日本の強みについて、日本の魅力、業界の成熟度、注目されるコンテンツ、人材の側面を著者の経験から述べる。
ニューヨーク、パリ、ラスベガスに代表される世界のトップクラスのMICE都市は誰でも一度は訪問してみたいと思う魅力がある。人を引き付ける何かを持っていることがMICE発展の基本条件だろう。米国、フランスなどのMICE大国は観光大国にもなっているが、『新・観光立国論』の著者、デービッド・アトキンソン氏が指摘するように、観光資源の基本条件として重要な気候、自然、伝統・文化、食事の4つは日本もすべて恵まれている。基本的な魅力は十分あるのだ。そして、海外から日本に戻り街の空気にふれた途端に感じる、何かほっとするものがある。他では感じることがない不思議な空気感だ。受け止め方の個人差はあるが、日本は世界標準で見ても便利さと快適さではトップクラスだと思う。これも日本の隠れた魅力ではないか。また、スキーやアニメ、ゲームのイベント、寺社仏閣見学、温泉体験などにひきつけられる外国人旅行者の増加から、日本の潜在魅力を確認できる。訪日外国人数が2015年は2000万人に迫り、2016年は2400万人を超えた。ニーズに合わせて日本の魅力に磨きをかければ、2020年の4000万人目標も達成できるのではと、しかもそれは最低目標ではないかと、第26回国際ミーティングエキスポ(IME 2016)で基調講演をされたアトキンソン氏はコメントし、日本の潜在能力について高く評価している。

次に業界の成熟度では、例えば展示会について見ると日本における近代展示会は1950年代から始まり欧米よりは少し遅れて発達したが、実績を積み重ね今では欧米と並び展示会先進国となっている。市場規模をUFI(国際見本市連盟)データの販売展示面積で見ると、日本はアジアでは中国に次いで2番目、世界でも米国、中国、ドイツ、イタリア、フランスに次ぎ6番目に位置付けられている。米国、中国の施設規模は日本の約19倍、14倍もあり、欧州は6〜9倍と格段に大きいが、日本の経済規模からすると順当な結果で、日本の展示会は欧米と同様に成熟した市場になっている。イベント・会議でも、国際博覧会やオリンピック、大型の国際会議・スポーツイベント等の開催経験を通じて人材、ノウハウや関連技術を世界トップクラスにまで発展させてきている。緻密な計画と確実な実行力、丁寧な仕事やきめ細かさなどは評価が高い。デザイン、施工、広報など各分野の専門人材がチームを組み連携して工程管理をフォローする力も競争力が高い。また日本には、アニメ、ゲーム、ロボット、食、環境技術、高齢化対応サービスなど世界が注目するコンテンツも多い。また金魚、錦鯉、盆栽など世界のマニアが注目するコンテンツもある。以上のとおり、日本はMICE大国に向けての基盤はすでに確立されており、さらなる発展に向けての潜在能力も高いといえるのではないか。では日本のMICE分野の課題は何か。諸外国と比較して気になる点は何か。ここでは企業、業界団体、自治体・国で取り組むべき課題について、著者が海外の関係機関との交流経験や国内の状況を見聞しての個人見解として述べたい。


取り組むべき課題
1. MICEと観光をパッケージで進められないのか?
以前から指摘されているように、欧米諸国や最近のアジアでは、MICE振興は観光とパッケージで推進されている。米国ではコンベンションビューローや観光局がMICE施設と連携して観光・MICEのマーケティングを包括的に行っている。欧州でも観光や企業誘致・投資促進の担当機関は存在するが、海外で国や地域の売り込みをする時は観光・MICEを重要なコンテンツとしてパッケージでプロモーションをする。例えばパリ首都圏が都市・地域のマーケティングを行う場合、地方投資促進開発局がパリ商工会議所、MICE関連団体、政府観光局と連携してMICE全体のプロモーションを行っている。

アジアの政府機関も同じ動きをしている。現在ASEANのMICEで先頭を走るタイは、タイ国政府コンベンション&エキシビション・ビューロー(TCEB)が観光庁(TAT)を含む政府機関や展示会(TEA)、コンベンション(TICA)の業界団体、MICE関連施設と連携協力しながら、タイ観光の魅力をアピールすると同時にMICE推進の総合調整役を果たしている。

シンガポールでは観光とMICEの連携が組織的にも強化されている。もともとは観光と展示会・コンベンションを別々の政府機関が担当していたが、今では観光庁(Singapore Tourism Board:STB)内に展示会・コンベンション担当セクションを設置してSTBが観光とMICEを一体的に促進している。

米国のコンベンションビューローには自治体・商工会議所に加えてホテル・レストラン、サービス企業などの多くの民間企業も加盟するケースが多い。彼らは観光とMICE双方のプロモーションを連携させ戦略的に進めることで、年間を通じて経済効果の平準化を実現している。観光・MICEの相乗効果に加えて、観光のオフシーズンにはMICEで補強し、集客や経済効果を安定させている。

一方、日本の状況は残念ながら観光とMICE促進が一体的に行われていない。政府の所管省庁や担当政府機関も異なる。自治体や民間の業界団体でも、それぞれ関係機関が別々の動きをしているケースが多い。政府機関では別々の組織を統合するとか、あるいは所管業務を調整するなどの組織的対応が難しいこともある。そこで実際の活動で観光・MICEを包括的に、特にMICEでは毎年同じ会場で商談取引を目的に開催される特性から経済効果が最大となる展示会分野も含むプロモーションをする工夫ができないのか。さらに自治体レベルではもう少し柔軟に組織的対応が可能か検討できないのだろうか。


2. 求められる業界団体の強化と連携
日本では業界団体の基盤が弱く、業界団体の連携も十分にできていないことも課題ではないか。例えばMICE関連の関係者では、展示会・会議・イベントの主催者、施設運営、工業会・関連団体、広告・代理店、企画・プロデュース、デザイン・会場設営、警備、事務局運営・人材派遣のサービス企業など多くの関係企業・団体が存在する。大きな区分としては展示会、コンベンション、イベント、施設運営、デザイン・施工等の分野でそれぞれ業界・関連団体が構成されているが、財政基盤も弱く各団体が連携して共通の課題に取り組むというケースも少ない。各団体では現場の安全や新しい技術に関する研修といった活動はあるが、業界のプラットフォーム的な団体ができていないこともあり、統一のスローガンで業界横断的な活動をするといった事例はあまり見られない。業界団体としての存在感や声は弱いものになっている。業界団体としてなぜ基盤を強化して大きな連携ができないのか。なぜ業界横断的な組織ができないのか。対策としてここでも欧米の取り組みを参考にしてはどうか。

米国ではCIC(Convention Industry Council)が33のMICE関連団体、19,500社を束ねている。加盟する団体もIAEE、ICCA、IAPCO、PCMAなど、展示会、コンベンション、イベントで世界的に活動をしている団体が多い。業界全体の経済効果調査を定期的に実施したり、業界の重要性をアピールする取り組みを内外で積極的に行っている。

欧州には展示会、コンベンション、イベント、サービス等に関連する17のMICE国際団体が加盟するJoint Meeting Industry Councilが設立されCICとも連携している。

フランスでは展示会業界団体が会議・コンベンション、イベント、代理店、施工・デザインの団体を取り込みUNIMEV(French Meeting Industry Council)を発足させ経済効果調査や外部への情報発信・広報活動などを中心に業界プラットフォーム団体として国内、海外で積極的に活動している。


3. 海外との交流活動ができていない
さらに深刻な課題として日本のMICEは世界とつながっていないことがある。関係する個人・企業・団体がUFI、ICCA、IAEE等の国際団体に加盟して総会その他分科会活動に参加しているケースもあるが、近年勢いのあるアジア勢と比較するとその数も極めて少数でインパクトがない。日本の場合、海外と比較すると特にトップマネジメントの国際交流活動への関心が低く参加も少ない。業界団体間の交流も十分にできていない状況だ。海外から日本への関係者訪問は多いが、日本から出かけていくのは少ない。トップマネジメントが出る機会はさらに限られるため、業界交流が難しくなる。海外でのMICE関連団体の会合や国際セミナー・フォーラムへの日本からの参加者は本当に少なく、日本についてプレゼンする人も限られるのでどうしても日本の存在感は低くなってしまう。

例えばUFIの総会では他の国際団体と同様に夕食会や昼食会スポンサー(ホスト)を募集している。スポンサーはスピーチや映像紹介などでプロモーションできる権利を得る。これを利用して香港などは毎年政府観光局、業界団体が一緒に香港プロモーションをやっている。当然政府機関や団体のトップが香港をアピールする。

その他、2016年からUFIとIAEEが協力して「Global Exhibitions Day」と呼ぶ展示会イベントの力を世界にアピールする特別な1日を設定した事例がある。趣旨に賛同した世界の展示会イベントの業界団体、関係企業がこのキャンペーンに参加した。UFIによると、昨年はUFI加盟60か国・地域の56展示会団体、主催企業、施設、サービス企業が参加してそれぞれの国・地域レベルで関連セミナーやイベントを開催している。さらに、多くの企業も企業単位での活動も実施した。事前にUFIから案内もあったが、残念ながら日本からは団体・企業レベルでも参加できていない状況だ。

このイベントは米国から始まったこともあり米国では「USA Exhibitions Day」として同時開催されているが、IAEEを含めCICメンバー、各地のコンベンションビューロー、施設関係者も多く参加している。世界がMICEの力を自分の国を含め世界にアピールしようと動いてる時に日本が参加できていないのだ。世界の動きについていけていない事実がある。日本と同様に国内市場が大きく、これまで国外にはあまり目を向けていなかった米国の展示会関係者でも外を向いて動き始めていることを日本の関係者はもっと理解すべきではないか。2017年は6月7日が「Global Exhibitions Day」になっている。アクションは何も大げさなイベントが必要ではない。キャンペーンのロゴをプリントしたボードを用意して「MICEはすごいぞ!!」「MICEは面白いよ!!」と業界や企業仲間とアピールする様子をキャンペーンサイトに投稿するのでもいい。日本からのメッセージを届け、世界と連帯できていることを見せるのがポイントになる。


4. 業界データが整備されていない
MICEの世界動向についてはUFI、UIA、ICCA等の国際団体が関連データを取りまとめている。各国・地域のデータについてもドイツではAUMA、米国ではCEIR、フランスではOJSなどの民間機関が展示会動向について、タイではTCEBの政府機関がMICE全体を、韓国では業界団体のAKEIが展示会については継続的にデータ取りまとめをしている。中国では各地の業界団体や中国国際貿易促進員会(CCPIT)が展示会データを纏めている。一方、日本ではどうか。まず展示会関連ではジェトロが展示会データサイト(J-messe)への入力情報やピーオーピー社が主催者へのアンケート回答をベースに毎年定期的にフォローしている。これで業種や開催件数、出展者数、来場者数のおよその動向はわかるが、主催者による公開情報の基準が不統一だったり、一部情報がそもそも公開されないこともあって重要な指標となる販売展示面積については把握できていない。次に会議関連では、各地の情報が日本政府観光局で取りまとめられるが、開催場所がコンベンションセンター、大学、ホテルなど多様で情報が集約しにくく、全体を把握するのが難しい状況もあるようだ。日本の問題は海外のように民間機関、業界団体や政府機関が統一基準で展示会又はMICE全体を取りまとめる状況にもなっていないことだ。確かに色々な制約はあるが、調査対象の条件や基準を定め海外のデータとも共通する項目で定期的に把握する方法を検討すべきではないか。データが整備されていないので、早急に対処すべきだとする議論をいつまで続けるのか。日本の動向を話す時に、これまでのようにUFI、UIA、ICCAのデータを根拠とするのではなく信頼性を確保した日本のデータで話せることがベストだ。